第十一夜 ギルバードの過去

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「――――――!」  アスティスの頭に強い衝撃が走った。 『アスティス……こ、こ、こ、怖かった、怖かったよぉ……っ!』 『さっき、アスティスは僕の危機に駆け付けてくれた……それが嬉しかったんだ』 『もしかしたらアスティスの隣なら悪夢を見たとしても助け出してくれるような……そんな気がして』 『アスティス、ありがとう。  私を助けてくれて……夢の中でも助けに来てくれたら……嬉しいな』  ティルアはずっとアスティスに訴えていた。 『怖い、助けてほしい』  あの暗がりの満潮の日。  泣きながらアスティスの名を呼び、腕を回してきたティルアの姿を思い出した。 「ティル、ア……!」  アスティスは身体の力を失い、ガクンと崩れた。  アスティスの襟を掴んでいたギルバードはふんと一言発し、床に膝を折るアスティスを抜き去った。  カルピナとアザゼルもギルバードの後に続いた。  一人残されたアスティスは崩れ落ちたまま頭皮をかきむしった。  わなわなと肩を揺らし、ただただティルアのことを想った。 『おかあさま、ごめんなさい。  女に産まれてごめんなさい。  女になってごめんなさい。  おかあさま、おかあさま……』  ――昨晩のこと。  アスティスは担架に載せられ運ばれるティルアの声を聞いてしまっていた。 「……潮時なのかもしれないな」  ラズベリアの滞在期間は過ぎていた。  アスティスは嫁候補を探す目的としてではなく、国学の習得を目的に滞在期間を延長していた。  それには勿論、納得できるだけの理由としてセルエリア宛にレポートを書いて出す必要があった。  最初こそ素晴らしいと思われていたラズベリアも、奥を知れば知るほど醜悪な点ばかりが目をつき、レポートの材料に困り果てた。  それでも、ティルアの傍にいるため、ティルアの願いのためとアスティスはレポートを書き続けた。 「これ以上……彼女を……苦しめ続けるわけにはいかない」  アスティスはゆっくりと立ち上がった。  インディゴブルーの瞳はゆらゆらと揺れていた。
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