第十一夜 ギルバードの過去

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 * * * *  謁見の間は重苦しい雰囲気に包まれていた。  火急の件とされたことにより、判事はすぐにも呼び立てられ、玉座の隣には裁判の記録員が筆をすらすらと走らせる。  玉座に腰掛ける王は表面上は落ち着き払ってはいたが、その内心が穏やかであるはずはなく、壇下に兵に取り押さえられたまま俯くレンに刺すような目線を送っていた。  その後方にギルバード、アザゼルが立ち、傍聴席にはアスティスが座る。  からんからんと音がして車椅子に座ったティルアがカルピナを伴って入室すると、傍聴席からどよめきが起こった。 「ではこれから接見を執り行います。  では、ナフア姫様からお願いいたします」 「昨晩わたくしは久しぶりにティルアを女湯にお誘い致しました。  ティルアとわたくしが湯に浸かっておりますと、浴場の木陰からこの男が侵入致しました。  ティルアを狙っていると気付いたわたくしが間に立つと、この男はその大きな腕をわたくしの頬に振り下ろしたのでございます。  そしてこの男は……事もあろうにティルアの上に覆い被さったのでございます!  止めようにもわたくしはか弱き女の身の上……困り果てたわたくしの前にギルバード様とアザゼル様が現れたのです」  ナフアは絹のハンカチで目元を拭いながら、しおらしく頭を垂れた。  隣にはナフアの他、姉のマールやジュリア、王妃の姿も見える。 「なるほど、では次、被疑者。  レン=ライネーブル」 “ ライネーブル ”  名が出された瞬間、傍聴席からヒソヒソと声が漏れた。  ライネーブル、この名をラズベリアでは知らない者はいない。  貴族の財を狙う連続強盗殺人として一躍名を広めた最悪の代名詞。  嫌でも耳に入ってくる過去の傷にレンは目をきつく瞑った。  そしてゆっくりと目を開き、ギルバードを見る。  何一つ動揺のない、強い光を宿す黒曜石の瞳はレンをひたすら信じる者。  だからこそレンはぶれずに戦う勇気を瞳に宿すことができた。 「俺は昼間、ティルア王子と共に街で買い出しに出ていた。  ナフア姫とアスティス王子が鉢合わせると、アスティス王子がティルア王子を追ってその場を離れていった。  それを見たナフア姫はその場に残った俺に話を持ちかけてきたんだ。  孤児院への援助をする代わりにティルアを襲えという話を――!」
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