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「そ、そんなのいいがかりですわ!
有り得ません、有り得ませんわ!!」
ナフアが血相を変えて王と判事を交互に見上げて訴える。
「真偽の程はともかく、全ての参考人に話を聞いてみなければなりませぬ。
しばし我慢をされてくだされ」
判事がナフアを諫め、次にギルバードに声が掛かった。
「では、おれはそこから先の話をしよう。
ティルアとおれが食事を終え、部屋で談笑していた時のことだ。
ナフア姫がドアに立った。
ナフア姫はどうやらおれが部屋にいることを知らなかったようだ。
よほどご立腹の様子で、ティルアとアスティスとの仲を羨んでいた様子だった。
ここでナフア姫はティルアを女湯に誘ったんだ……間違いない」
「なるほど。
ならば、なぜギルバード殿はいつナフア姫の計画に気付いたのですかな?
湯浴み場に向かったということは、それだけの理由がなくては証言が成り立ちませんな」
判事の言葉に、ギルバードは隣のアザゼルに合図を向けた。
薄茶の髪の下に宿る橙の瞳はしっかりと前を見る。
「私はティルア様にセルエリアの家庭料理をお教えすべく、部屋を訪れました。
そこに我が国の王子ギルバードがおりまして、私はそこでティルア様の所在についての話を尋ねました。
話を耳にし、私はすぐにもティルア様の身に何か起きていることを直感致しました。
なぜなら……ティルア様はその数日前にも、姉であるマール様から拷問を受け、背を鞭で叩かれておられましたから」
「!?
なっ、何ですって!
そ、そんなの作り話ですわ!!」
ナフアの隣に立っていたマールは突然のことに慌て、ナフア同様声を上げた。
ギルバードが待ち構えていたように続ける。
「セルエリアからの使いがこの国に訪れた目的というものは、アスティスがティルア王子の怪我を見かねて薬を寄越したからに他ならない。
貿易記録を問い合わせてみるといい、セルエリアからラズベリア宛の薬が城に持ち込まれているはずだからな」
「――――!」
ナフアは気付いたのだろう。
アスティスが使用人の部屋に立ち寄った時のことを。
ナフアはその時、共に夜会に出るアスティスに付き添っていた。
アスティスが手にしていたものは、セルエリアからの薬であると確かに聞いていた。
「お、お姉さま……」
青ざめる姉妹の姿が判事と王の目にはっきりと映された。
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