第十一夜 ギルバードの過去

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 沈黙は肯定と同意義。  ナフアは蒼い顔で押し黙り、マールは下唇をきゅっと噛み締めた。  傍聴席は騒然となり、ざわめきが大きくなる。  王族同士の確執は歴史上で幾つも確認されている事象だったが、このように表沙汰に明るみにされることはなかった。  しかもこの案件は民の心理を利用するという悪質なもの。  これが事実となれば、ナフアもマールもただでは済まない。 「お待ちになってくださいまし!」  娘二人が諦め顔の中、黙っていた王妃が立ち上がったことで、場は再度水を打ったように静まり返った。 「ねぇ、イアン。  あなたはわたくし達の娘がこのような恐ろしいことをするとお思いになって?  聞けばそのレンという男はあの希代の犯罪者ライネーブル夫妻の子供というではありませんか。  しかも、このギルバード王子。  セルエリアの第三王子という生まれでありながら、あまりの素行の悪さに王も兄弟も使用人ですら呆れ返る程の悪漢ぶりだと悪評高い御仁でいらっしゃいますのはご存じですわね?  大方、アスティス様とこの国の評判を貶めるべく、ライネーブルとそちらの使用人と結託して事件を捏造しているに決まっておりますわ。  ね……、イアン。  あなたは血の通った娘と悪評高い国外の荒くれ者と――  どちらを信じるおつもり?」 「お父様! わ、わたくし、そのような恐ろしいこと、やってなどおりません!!」 「お父様! 信じてくださいまし!!」  王妃の助け船に乗じて、ナフアもマールも声高に無実を叫ぶ。  傍聴席のざわめきに、ライネーブルとギルバードの噂話が混じり合う。 「……ギルバード様――」  こめかみから汗滴を一粒垂らしながら、アザゼルは隣のギルバードを見る。  ギルバードは顔色一つ変えないものの、旗色の悪さを肌で感じた。 「ふん、確かにそれを言われてしまえばおれに勝ち目も手立てもなくなる。  おれにはかりそめの王位以外に使える武器がないからな」 「……そんな!」  ライネーブル家の悪評やギルバードの素行についての声が追い風となり、王妃の後方に立つナフアとマールの表情に余裕が戻ってくる。  ギルバードはじっと傍聴席のある一点を見ていた。  インディゴブルーの瞳を見ていた。
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