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本来であれば簡易な接見の後、法廷に案件が送られる手順を辿るはずだったが、今回の件は事が事だけに王の計らいもあり、穏便に済まされることとなった。
傍聴に訪れた者には箝口令が敷かれ、外部への拡散を防ぐことで収拾した。
――だが、それでもティルアの意識が元に戻ることはなかった。
「……ティルア様、何か、何か口にしませんと」
いつものように鳴り響く昼鐘。
部屋に戻ったティルアの口にスプーンが運ばれるも、ティルアは口を動かさない。
カルピナはスプーンを取り下げると、口許についてしまった汚れをナフキンで震えながらぬぐった。
「代わります」
アザゼルがカルピナからスプーンを受け取り、ティルアの口許へと運ぶ。
「いやっ……嫌、……いやぁあああっ!」
ティルアはアザゼルの腕を振り払っていた。
からんからんと音を立てて、スプーンが転がり、床を汚した。
「…ティルア様……!」
アザゼルは呆然とし、ティルアを見るも、ティルアの瞳に光が戻ったわけではなかった。
振り上げられた腕、乱れた呼吸、そして恐怖に歪んだ顔を目の当たりにしたアザゼルは瞳を伏せた。
「……お気になさらずにいらしてくださいませアザゼル様……。
アザゼル様だけではありません。
三年前も……今と同じようにティルア様は殿方との交流一切を拒絶しておりましたから……」
「っ……!!
カルピナ嬢……すみません、少し席を外します」
顔を歪ませたアザゼルか視線を下におろしたまま、ドアから出ていった。
ドア前の壁に腕組み、凭れていたギルバードは息を一つついて上体を起こした。
「――ったく、世話が焼ける。
カルピナ嬢、あのバカを追い掛けてくれ。
ああいうタイプは一度頭に血が昇ると手に負えん。
昼餐中に乗り込むなどしたらセルエリアの名折れだ。
お前が行けば思い止まるだろう」
「!!
わ、分かりましたわ、すぐにも!」
カルピナはサイドボードにスプーンをそろりと置くと、一目散にドアの奥へと消えていった。
再度訪れる静寂。
ギルバードはティルアが上体を起こして座るベッド横の簡易椅子に腰を下ろした。
真正面を向いたまま微動だにしないティルアの横顔を眺める。
白い首筋にはまだくっきりとアスティスの欲の痕が残されていた。
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