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ギルバードはティルアの首筋に手を伸ばす。
「い、いや、嫌っ……!!」
ギルバードは振り払おうとするティルアの手首を押さえ付けた。
「……や、こわい、やめて、お願い……やめて……!」
「……ティルア、女でいることはそんなに嫌か?」
「っ……やっ、や、離して……お母様、ごめんなさ――」
ギルバードは尚も逃げようとするティルアの上体を握った両手首ごとシーツに押し付けた。
「……お前は……っ!
いつまで過去を引きずっている!?
姫王宮を救うために男に産まれなくてはならなかった――だが、実際は女として生を受けた!
お前は努力し続け、並みの男にでも出来ないような精神をもって民を慈しみ、国を育ててきた……そうだろう?
男でなくとも、お前はやってきた、やってこれた――違うか!?」
「……………っ!!」
「ならば、なぜそれを誇ろうとしないんだ!
女で産まれても、お前は立派な王族なのだと、胸を張って母親に誇るべきなのではないのか!?」
「…………」
「…………おれの母親は最期の最期まで、おれを見ていなかった。
一言でもいい……愛してると、そう言って貰えていたならば――……」
ティルアの手首を握るギルバードの手は震えていた。
あたたかいものがシーツにぽたりと染みを作っていく。
闇色の瞳はゆらゆらと揺らめきながら、透明なしずくを滴らせる。
ギルバードはティルアの赤い瞳をじっと覗き込み、ふっと笑った。
掴んでいた手首を解放したギルバードは上半身をティルアからのっそりと退かせると、何事もなかったように簡易椅子から離れる。
「…………少なくとも、今のおれはお前が女でよかったと思っている」
ティルアに背を向けたギルバードはそう言い残し、ドアを抜けた。
「ふん、母親に誇れるように……か。
おれは、今からがスタートなんだ。
お前はおれよりも、ずっとずっと先に進んでいる。
お前を見て、おれはあの女が憎かったのではなく、愛されたかったのだと――そう気付けたからな……」
ドア越しに、ティルアには聞き取れない程の声を呟いたギルバードは口許を緩ませた。
それは誰にも見せたことのない、眩しい笑顔だった。
(第十一夜/おわり)
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