第十二夜 アスティスの帰国

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 スッと筋が通った逞しい筋元はおどろくばかりの熱を持っていた。  とくんとくん、規則的な寝息が聴こえてくる。  金色の髪は暗がりの中にも豪奢な刺繍用の金糸のように細く眩い光を放つ。  スッと伸びる整った鼻梁と長い睫毛。  下に眠るインディゴブルーは宝石のような聡明な輝きを宿していることをティルアは知っている。  やや厚みのある唇はもう幾度も重ねてきた。  そっと指でなぞると、ただそれだけのことでティルアの身体はぞくりと震えた。  二秒経ち三秒経ち――、ティルアは自分がアスティスに見とれていることに気付く。  閉じられた瞼が開くことを密かに望んでいることに気付いてしまった。 「…………憎いはずだった…、なのに、なのにどうして、どうしてなの……!」  ティルアの奥から込み上げる涙が次第に嗚咽に変わっていく。  肩を震わせ、声を殺し、ティルアは口元を押さえた。 「――――っ、うっ、うっ……」  憎みきれない、そこにはアスティスがいかにティルアを大事に想ってくれているかを知ってしまっているから。  ふとした瞬間に見えたアスティスの悲しそうな表情、 憂いを含んだ笑み、切なる態度の裏側に隠されたものを知ってしまったから。 「…………ティルア……、ティルア?  …………!? 戻ったのか!?」  インディゴブルーの瞳が開かれ、すぐに泣いているティルアの姿を絡めとった。 「泣いているのか?  また怖い夢を見たのか……!?」  上体を起こしたアスティスがティルアの身体をぎゅっと抱き締めてくる。  痛いほど力が籠った抱擁に隠された想いを知ってしまった。  醒めたような目付きでそれを受け入れるティルアに気づかず、アスティスは抱き締めたティルアの栗色の髪を梳き撫でる。 「ティルア、もう大丈夫。  悪夢はもう終わったんだ。  もう絶対に君を傷付けたりなんかしない……!」  アスティスの腕の中は温かかった。  顔を埋(うず)めれば安心した。  何も変わらない、変わらない……。  変わってしまったのは、自分の中の記憶。 「……アスティス、夢の中まで助けに来てくれる……?」  腕の中のティルアは醒めた目を開きながら、白いほっそりとした手をアスティスの腕に回した。  前回ティルアに言ったように今回もまた、アスティスはあの時のように言うのだろうか。 「……それは出来ない」
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