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「アス……ティス……?」
アスティスの背に回していたティルアの腕がだらんと脱力した。
ティルアの両肩に置かれたアスティスの手がティルアの身体を引き離した。
「三年前――
正直……この頃の俺は世俗のものに冷めきっていて、特に女性関係は苦手だった、結婚などただの世継ぎを設けるための手段なのだと。
俺にとっては剣や政治をひたすら学び、吸収していくことだけが生きる全て。
だがそんな渇いた俺にも転機が訪れた。
それがある舞踏会に参加した一人の女性との出逢いだったんだ」
「…………」
「女は俺の肩書きや見た目ばかりを気にし、寄ってくる。
媚びた目で、色を仕掛け、どうにか名のある紳士の目にかかろうという魂胆が見え見えの女達……うんざりだった。
父上からの話がなければ舞踏会なんて」
「でもアスティスは舞踏会……夜会は事ある度に参加しているじゃないか」
「……それは君を、ティルアを……探していたからだ……」
ティルアは思い出す。
ユリアとアスティスの会話の中で、アスティスが人探しをしているとの話を。
詳細を聞いて助けになろうとしたティルアの申し出をばっさり断ってきたアスティスのことを。
「……アスティスが探していたのは僕だった……だから初めて謁見の間で会った時も、その晩の湯浴み場の時も――ずっと僕をそういう目で見ていたのか」
「…………何年も君を探しに舞踏会に参加し続けていても、君は俺の前に一向に現れなかったからね……最終手段に出るしかなかった」
「それが、今回の一連の花嫁候補選出の舞台裏だった――そういうわけか、アスティス」
先程まで感じた胸を焦がすような熱さも名付けられないような想いも、すうっと嘘のように引いていた。
憎しみと苛立ちがティルアの中に大きくなっていく。
「馬鹿に……馬鹿にするな!
そんな……たったそれだけの理由で数多くの同盟国の姫君達の想いを踏みにじり、弄んできたというのか!
姉上達のこともそうやって弄んだのか!」
「………………そうだ。
言い訳するつもりもない。
俺はただ、君に逢いたいがために花嫁候補の選出を利用し、同盟各国を逗留してきた」
抑えきれない衝動がティルアの右手から放たれた。
宵闇の空気を縫って乾いた音が響き渡った。
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