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そんないきさつがあり、第一王子の座は必然的に二番手の王子であったアスティスが踏襲することとなった。
三番手としてアスティスの僅か数時間後に産まれたギルバードはそのまま第三王子にされた。
以上のことから、セルエリアでは現在も第二王子の座は空席のままになっている。
ふと、ドアが遠慮がちにノックされた。
戻ってきたか――そう思いながらギルバードは声もかけずにドアを開け広げた。
「ティルアさ――え!?」
「…………なんだお前か」
立っていた者はティルアではなく、レシピ集を手にしたアザゼルだった。
「なぜギルバード様がこんな時間までティルア様の部屋に……」
「お前こそ。
こんな夜遅くにティルアの部屋に訪れてどうするつもりだ?
……夜這いか?」
「ティルア様はどちらです?
私はティルア様に用事があるのです。
あなたに用事などありません」
「……へぇ、それが仮にも一国の王子であるおれに言う台詞か?」
奈落の底に堕ちる黒曜石の瞳が不遜に黄昏色の瞳をねめつける。
対するアザゼルもギルバードに対して敬語は崩さないものの、態度としてはとても上位の者に接するものとはかけ離れすぎていた。
ギルバードはアザゼルが手にしている本を見て理解した。
「その料理本をティルアに渡せばよいのだろう?
おれはティルアが戻ってきたら話があるのでな……もうしばらくはここに滞在する。
伝言ならしておいてやるから、戻るがいい」
「いえ、あなたがこの場に留まれる位ですからね、私もここでティルア様を待たせていただきます。
アスティス様の護衛公務も必要ないですし」
「ふん、まあ好きにするがいいさ」
ギルバードは興味なさげにドアから離れると、すたすたと部屋を徘徊し、窓から見える湯浴み場を覗き見た。
「……確かに遅いな。
まあ、女の風呂というものは長いものだからな。
付き合わされるティルアにしてみれば、たまったものではないだろうな」
「女に付き合わされる!?
ギルバード様、一つ……
一つお聞きして宜しいですか?
ティルア様を……湯浴みに誘った方とは……?」
アザゼルの表情が一気にさっと緊迫したものに変わったことで、ギルバードは眉をひそめた。
「姉のナフアだ。
昼間のアスティスとの一件でかなりご立腹のようだったな。
部屋に居るおれに気付かずに捲し立てる様は滑稽だった」
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