第十夜 軋んだ心

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 ティルアの頭に写真の中でしか知ることのない亡き母セリアの姿が浮かんだ。  セリアは世継ぎを、男児を産み落とすためだけにイアン王と契りを交わした。  セリアは男児を産まねばならなかった。  誕生した赤子が女児であると知った時の絶望が、果たせなかった責任がセリアの命を奪う結果となった。  次にティルアが思い浮かべたものは、ギルバードの言葉。 『産まれてくる順番を間違えた。  それだけで母親は悪魔になれる』  産まれてくる順番を間違えただけで母親が悪魔になったのだとしたら。  存在自体を間違えて産まれてきてしまったティルアはどうしたらよいのだろう。  もしセリアが生きていたとしたら、今のティルアを見たら――  気持ちがいいと思った。  理性など飛んでしまうほどに、せがんでしまいたくなるほどに。  どんなに罪であることかを分かっていながら、それでもこの一時の渇きを満たせれば、この身体を甘く蝕む疼きが求めるままに溺れてしまえれば――。 「ああっ、あああ、ああああ!  んんっ、き、気持ちいいよぉ……っ」  自分は壊れてしまったのだとティルアは思った。  涙が後から後から溢れ出てくる。 こんなことをしてはいけないと、罪深いことだと知っていながら、分かっていながら。 「はぁっ、ティルア、可愛い、可愛い……!」  ティルアに覆い被さるレンがうわ言のように繰り返しながら理性が飛んだ獣のようにティルアに何度も何度も楔を撃ちつける。  ティルアの視界に夜空が浮かび上がった。  満天の星空、無限に広がる銀河の海に救いを求めるようにティルアは震える手をゆっくりと伸ばした。  ふわっと身体が浮き上がるような感覚が全身を走り抜ける。   「あ、ああああっ、ん――、あ……」  ティルアの身体がびくんびくんと波打った。  そしてそこから、意識がぷつりと途切れた。  * * * * 「はぁ、はぁっ……ティルア、ティルア……!?」  レンはぐったりと動かないティルアを抱き起こした。  声を掛けても返事はなかった。 「あらあら、どうやら賭けはわたくしの勝ちのようですわね」  耳にゾッとするような嘲り笑いが入り込んだことでレンは急激に現実に引き戻された。  バタバタと慌ただしい足音がこちらへまっすぐに向かってくる。
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