第1章 紅き炎の乙女  壱

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様々な種類の花達に囲まれた店内から、その黒い瞳は外を見つめる。 何事もない平和な一日だった。 半分ほど西に沈んだ太陽を見て、少年そう心から思ったのだった。 「おーい、昴。店のシャッター閉めてくれ。」 「はーい。」 店の主に返事をし、様々な花の匂いがする店内から外に出る昴。 外は少し肌寒いと感じ、風が吹くと思わず身震いしてしまう。 店主に言われた通り、シャッターを降ろし始めた時だった 「すいませーん!!」 大きな声が聴こえた。 出所に眼を向けると、少女が走っていた。 (俺と同じ学校の制服か…。)っと思いながら、待つこと数秒。 軽く息を切らした少女が昴の目の前で止まる。 「えっと…何でしょうか?」 「あの!まだ花を買えますか!?」 黒く美しく、そして長い彼女の髪。 それの乱れを両手で直しながらの質問だった。 どこか必死な印象を少女から感じ、ちらっと店内を確認すると店主の男がサムズアップし、昴を見ていた。 「(売れってことか…)どうぞ中に入いられてください。」 「あ、ありがとうございます!」 掴んでいたシャッターを再び押し上げ、少女を店内へと招き入れたのだった。 「らっしゃい!何をご所望で!?」 「ひぅっ!?」 いきなりの店主の大きな声に客である少女は、堪らず短い悲鳴を漏らしてしまったのだった。 「後藤さん…声が大きいです。」 「オーナーと呼べ!!」 「だから声が大きい…もう、いいや。お客さん、何の花を買いに?」 「あ…えっと…。お、おすすめは何かありますか?」 店内を見渡した後、彼女はそう口にした。 その表情は苦笑。 長年のバイト歴から、昴は彼女が花に詳しくないと即座に悟ることができた。 「そうですね。俺がおすすめするのは、このコスモス達です。」 スパーン!と漫才師も真っ青なツッコミを昴の頭部に入れるオーナー後藤。 あまりの大きな音に、またもや少女は短い悲鳴を発したのだった。
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