第1章 紅き炎の乙女  壱

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暗くなった街の中を歩いての帰宅。 時折吹く春風。 やはり少々冷たいのか、両手をブレザーのポッケに突っ込む。 吐く息も白く、自然と足早で帰路につく。 その道中だった。 言葉で表現できない、奇妙な感覚が昴の全身を覆ったのだ。 「・・・。」 歩みは止まり、周囲を見渡すと人1人いなかった。いるのは、自分ただ1人のみ。 こんな状況の中、昴は過去の記憶が蘇える。 ――― 辺りは紅い。 空も地上も全てが紅い。 立っているのは、たった一人。 横たわるのは・・・ 紅く染まった人間と・・ ――― 一度、舌打ちをすると来た道を戻ろうと身体を反転させた。 そんな時だった。 「・・っ!?」 信じれないモノを目撃してしまったのだ。 歩みを進めていれば曲がっていたであろう、その角から先ほどの少女が姿を見せたのだ。 「人払いの結界・・。発動される前に結界内にいたのか!?」 それは過去にも例があった。 結界を張る前に一般人が紛れ込む・・・その結末はほとんどが同じ。 死。 それだった。 不意に感じた、懐かしい異様な気配。 感じた場所は、少女の直ぐ後ろからだった。 「くそっ・・!」 鞄を投げ捨て、一歩を踏み出すその瞬間、足に筋力とは違う力を入れる。 そして・・・常人には成し得ない速さ走りだした。 少女は近づく昴に気づく事も、背後から表われた3メートル程の異形のモノに気づくこともない様子で立ち止まる。 異形のそれは、己の太い腕を振り上げる。 もし振り落とされれば、少女の死は火を見るより明らかだった。 「間に合え!!」 前方に向かって大きく跳躍。 宙を舞う間に身体を捻り右脚を後ろに引き、蹴りの態勢をとる。 距離にして、約30m。 昴は宙を舞い、2本の角が生えている異形の側頭部に蹴りを決める。 接触した足の甲から細かい何かが幾つも飛び散り、街灯の光を反射しキラリと光る。 己の倍以上ある巨体が横に倒れたのを確認し後方へ振り返る。 そこには、大きな瞳を更に大きく見開いた少女が佇んでいた。 「君、逃げるぞ!」 呆けている彼女へ駆け寄り、その腕に手を伸ばす。 だが、伸ばした手は少女によって弾かれた。 そして、信じられない言葉が昴の耳に入ってきたのだ。 「邪魔しないでくれる!?」?
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