第1章 紅き炎の乙女  壱

5/25
前へ
/25ページ
次へ
「・・・はぁ??」 今度は昴が呆然とする番だった。 よもや、助けた相手に邪険に扱われるなどと誰もが予想できなかっただろう事態。 「ってアンタ、さっきの花屋さん!?」 「ちょ・・君、あれが見えないの!?逃げなきゃまずいから!」 蹴り飛ばした異形を指さし、逃走を必死に呼びかける昴に、彼女は眉間に皺を寄せる。 「あれって猿鬼[えんき]の事?」 「そうそう猿鬼の事・・・うん?」 「グルル・・!」 会話行われている最中、異形の存在である猿鬼は立ち上がり、2人を睨む。 昴は頭を過ぎった少女への疑問を後回しに、彼女の腕を掴む。 「急いで逃げないと――」 「だから・・私の邪魔しないでってば!!」 掴んだ手を振り払われ、又しても怒号が飛んでくる。 止めにに物凄い形相で睨まれ、思わず身体が硬直してしまった。 少女は、昴を放置し猿鬼の方へ歩みを進める。 歩みは直ぐに走りへと変わる。その速さは、昴と同様に常人を超えた速さであった。 「はぁぁああぁっ!」 「グルァア!!」 近づいた彼女に猿鬼が、太い腕を振り落とす。 その威力は凄まじく、アスファルトが陥没し地が揺れた。 直撃していれば、人としての原型は留めてはいられない。 だがそこに紅い血は飛び散ってはいない。 「どこを狙っているの?」 彼女は夜空に居た。 月を背後、星々に囲まれた少女の右の手・・・ そこには有り得ない現象が起きていた。 「炎の・・・霊滅師・・?」 紅蓮の炎が彼女の右手にを覆っている。 そして、右手は真下にいる猿鬼に向けられる。 「焼失しろ!!」 紅蓮の炎が一段と大きくなり、猿鬼へと放出される。 炎は意図も簡単に猿鬼を飲み込んだ。 「ギイオォォオ!!?」 断末魔の叫び声。 だが、やがて叫びも炎も、そして猿鬼の姿も消え去る。 残ったのは、猿鬼の居た場所に転がった透明の結晶体だけだった。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加