第1章 紅き炎の乙女  壱

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まるで猫のように、軽やかに着地。 そして地に転がった水晶体を持ち上げる。 水晶体自体は、彼女の手手中に収まる程度の大きさ。 不意に彼女は視界を閉ざし、手に持ったそれに集中。 途端に水晶体が輝きを放ち始めた。 「・・・外れね。さてと。」 開かれた瞳はギラリと光っており、怒気が含まれている。 そのまま回れ右を、俊敏性が伺える速さで決める。 「あれぇ!?」 だが、そこに怒りの対象である昴は居なかった。 ――― あの場から逃走した彼は、とある公園を訪れていた。 ベンチに座り、顔を両手で押さえている。 「やっちった・・・。」 彼の周囲を哀の空気が漂う。 勿論、発生源は昴自身である。 「よりによって霊滅師を助けようとするなんて・・・。」 ため息を1度・・また1度と漏らし、おもむろに腰を上げた。 「職場はバレてるし、制服で学校も知られたよな・・。」 哀愁を撒き散らしながら帰路に着く。 やがて木造の立派な屋敷が見えてきた。 その門を潜る際、右手で空を払う。 「ただいま~。」 「お帰りなさい、兄さん。」 「あぁ。雪風[ゆきかぜ]ただいま。」 玄関まで昴を出迎える雪風と呼ばれた少女。 綺麗でユルユルとパーマのかかった栗色の髪。 綺麗顔立ちで足も長い。 まさに美少女がそこにいた。 雪風は昴から鞄を受け取る。 その際、彼女の顔があからさまに曇った。 「兄さん、どうしたんですか?」 「あ~うん。さっきさ・・猿鬼に襲われている一般人助けるつもりが・・霊滅師だった。」 「え・・?」 「しかも、職場も学校も知られた・・。」 「そんな…!なにしちゃってるんですか!!?」 妹による説教タイムの開始だった。
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