魔王と捨て子

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思わず小さく苦笑を零し、赤子をその腕に抱え直して。 ベルフェゴールは頷くと、己の首を彩る黒い石へと手を掛ける。 「クレプスクリム」 呼んだ名に、空間がぐらりと揺れる。 黒い石から迸る闇色の光がくゆる。 気が付けば彼らの目の前には、巨大な目玉が佇んでいた。 「私の魔力はどれだけ使っても構いません。全速力でお願いいたします」 返事を返すかのように、一瞬輝く目玉を見て彼女はその表面に静かに触れた。 ふわりと若干地面から浮き上がる球体へと飛び乗り、鉤爪に座る。 思い描くのは、己の知る子持ちの魔王の姿。 残念ながら、頼れるとしたら、1人だけだけども。 「ルシフェルの城へ向かってくださいまし」 告げると同時、クレプスクリムは転がり出した。 赤子が落ちないように片腕でしっかりと掴まえ、抱きしめる。 彼女の言いつけどおり、全速力で駆ける目玉の存在感――プライスレス。 と。 どのくらい走っただろうか。 見えてきたのは、荘厳な巨城。 気が付いた彼女はクレプスクリムの様子を見る。 「そろそろ止まって、…あら?」 刹那響き渡る轟音、開いた穴と崩れた壁と。 1人分程度の穴をあけ埃にまみれ、あおむけに地面に転がるベルフェゴール。 クレプスクリムはいつの間にか彼女の水晶に還り、赤子は腹の上で欠伸を零す。 紅茶のカップを掴まえたまま、ひくりと引きつった表情を浮かべたルシフェルは、突然の来訪者を茫然とした表情で見据えた。 瞳の色が変わっているのは、気のせいではなさそうだ。 「申し訳ありません、ルシフェル。それよりも聞きたいことが」 けれど、感情もなく淡々と紡がれた声に、彼はキリキリと痛む胃のあたりを抑えたのだった。 To Be Countinued……?
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