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去年の春まで住んでいたはずの街。
毅一と出会い楽しい思い出もいっぱい作ったこの街で、私は今日、本物の別れを告げられるのかもしれない。
そう考えただけで涙が溢れてくる。
だけどそれを必死に堪え、私は特急電車を降りた。
改札をくぐり、駅の正面へと出る。
するとそこには、よく見慣れた1台の車が停まっていた。
この車の助手席は、いつも私の特等席だった。
だけど今は・・・。
「・・・ごめん。」
私の姿を見るなり深々と頭を下げる毅一。
そんな彼の姿を、駅舎に出入りする人々が横目で見ていく。
「とりあえず、車乗っていいかな・・・?」
「ああ・・・、いいよ。」
毅一は私に気を遣い、助手席のドアを開けてくれた。
助手席の灰皿には見慣れないタバコの吸い殻がある。
白くて細いタバコのフィルター。
きっとこれは、女性が好むタバコだ・・・。
「家に向かうけど・・・、いい?」
「うん・・・。いいよ。」
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