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「レノの図書館」について
――むかぁし、昔。
世界は酷く荒れていた。
人々は貧困と戦争に苦しみ、災いの火は全てを焼いた。
人も、街も、木々も、動物たちも、そして本も。
自由を失った本は権力者に都合のいいことだけを喧伝する道具になり下がり、知識の独占は人々から思考を奪った。
災いの火は留まるところを知らず、やがてその火が世界中を焼き、自らの体をも焼き焦がすまで、人々は時代の流れに抵抗する術すら持たなかった。
その時代に生き、未来を憂い嘆いた一人の人物は、この悲劇の時代を繰り返さぬようにと、世界各地に大きな図書館を作った。
時の権力に利用され本の自由が奪われることがないように、すぐには見つからぬ場所へ。
それでも純粋に知識を求め、本に対して敬意を払える者にはそれを与えられるように、見つけられぬことはない場所へ。
人生をかけ図書館を作ったその人物の名は「レノ」。
『レノの図書館』には、世界のすべての書物が所蔵されており、その全てを読むことができる。
そして図書館にいる「司書」に頼めば、その本ひとつひとつの記憶を読むこともできるのだという。
本の記憶というのがどのようなものなのかはわからないが、要は本というものも我々と同じように命を持ち、生きているものなのだ。
だから、本は大事にしなくてはいけないよ。
本は人間と違い、嫌な記憶を忘れることなどできないのだから――
これが、この世界に一般に伝わっている『レノの図書館』の伝承です。
『レノの図書館』が複数あることに関しては言及されていますが、それが具体的にいくつ、どこにあるのかという点については伝わっていません。
この伝承はほとんど単なる昔話として扱われ、図書館の存在も本気で信じる人はあまり多くありません。
ですが大きな戦争と災害で多くの本が焼けたこの時代においては、埋もれてしまった歴史を知り、失われた技術を復興させ、この世界の謎を明らかにしたいと願う者たちが『レノの図書館』に望みを託し、図書館を探し求めて旅をすることも多くなってきているようです。
この章ではこれらの図書館とそこで働く人々について紹介します。
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