第1章 宿星―赤と緑

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月は星天(せいてん)に低く輝き、林道(りんどう)に淡く光を落としている。 西湖(さいこ)水面(みなも)はその光を映し、富春(ふしゅん)の森をまた照らし出す。 涼やかな春風が、左右の樹緑(じゅりょく)をかすかに揺らす以外には、さしたる(こえ)も聞こえてはこない。 その中を一驢(いちろ)静々(せいせい)と湖畔の林道を進んでゆく。 鮮やかな朱色(しゅいろ)の道着を身に(まと)い、腰には弓を(たずさ)え、その幼貌(ようぼう)に反して、(りん)とした気を撒散(さっさん)し、単騎(たんき)歩みゆく。 まだうら若い佳人(かじん)である。
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