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「…それもそうか。」
「それもそうです。」
「…なんでだろうな。フェアで行きたいから?」
「はいっ?」
全く訳の分からない返答をされ、それこそくるみはますますパニックに陥っていた。
そんなくるみの手を握り、黒岩は穏やかな表情で言った。
「しんどかったのかもな…隠し続けることも、それを誰も知らない状況も。」
「…?」
「バレたらやりづらくなるけど…ま、お前面白いしいいかなって…カラかい甲斐がある。」
「…つまり、私は遊ばれてると?」
「ま、そーなるか?ってわけで、他の奴らには内緒な?」
(すっっっごい不愉快。)
くるみは黙り込む。
それこそ、隣に歩く黒岩に不快感しか抱かなかった。
すると、黒岩はふっ、と不敵に笑った。
「こういうのってさ、年頃の女は萌えねぇの?」
「はっ?」
「だってさ…」
そういって、意味ありげに黒岩はくるみの耳元に口を寄せた。
肩を抱かれ、くるみはビクリと震えた。
「二人きりの秘密よ?萌えねぇ?愛されてるーとか、特別―とか?」
「やっっ///」
ふっ、と息を吹きかけられ、くるみはギュッと目を閉じた。
黒岩は肩を抱いたまま、ゆっくりと歩く。
「そーゆう反応ね…男としてはそそられるんだよな…」
「やっっ!!やめてくだ…」
「はい、着いた。」
そして、唐突に光を感じ、くるみは目を開ける。
職員室の明かりは、扉から薄く漏れていた。
途端に、現実に引き戻されくるみは黒岩の手を振り払った。
黒岩は、やれやれと首を横に振った。
「お前…反応分かりやすいのな。」
「からかわないで下さい…」
「…慣れてないから?」
「っっ!!本当に怒りますよ!?」
はいはい、と黒岩は言って、職員室に入って行こうとする。
と、扉に手をかけたところで、黒岩は振り返る。
で、いつもの口調に戻り、言い放った。
「そこで待っていなさい。送るというのは、冗談ではないのですから…」
「えっ?」
「返事をしなさい。間宮 くるみ。」
「は…はい。」
よろしい、と呟き黒岩は職員室に入って行った。
鍵を返すだけの、短い時間が妙に心細くなったのを…
くるみはひたすらに否定し続けなければならなくなったのだった。
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