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車内ではクラシックが流れる。
表情豊かなピアノの音色…
くるみは徐々に落ち着いて行った。
「後部座席も無理か?」
その質問に、くるみは頷いていた。
夜、車内は助手席より後部座席の方が闇は濃い。
その配慮だろうか、黒岩は訪ね、くるみを助手席に乗せていた。
しかし、落ち着いて行っているにもかかわらず、くるみはなおも俯いていた。
交差点の信号が赤になる。
黒岩は車を停止させ、くるみに目線をやる。
助手席の方が、いくらか外の明かりが入るにもかかわらず…くるみは車に乗ってから一言も言葉を発していなかった。
そして、黒岩は行動した。
「っ!?」
スルスルと…
くるみの横にあるドアウインドが降り、夜風がくるみの頬を撫でた。
「先…生?」
「お前、閉所恐怖症も入ってんだろ?」
「っっ!?…は…い。」
「開けた方がマシか?」
「…はい。」
なら、開けとけ。と黒岩は再び前を向く。
信号が青に変わる。車を走らせる。
風は、冷たい。
それでも、先程よりも開放感がありくるみは正常な呼吸を取り戻していた。
暗闇と、閉鎖的な空間…
くるみは、その二つが揃い始めて恐怖に陥る。
昼間の校舎、教室は必ず明るいし、クラスメイトも傍にいる。
故に、恐怖に陥ることも無く、症状も出ることも無かった。
夜、出かける時も近所に歩いていくか、車でもこうやって窓を開けるか、懐中電灯を備え付けるかして対応していた。
「あの…先生、寒くないですか?」
「あ?…寒いよ?けどまぁ…お前かなり酷いみたいだし。」
「…ごめんなさい。」
「謝んな。お前のせいじゃないだろう?」
「…いぃえ、私の…」
私のせい…
その言葉を、くるみは飲み込んだ。
暗闇の空間で、闇に葬ってしまいたい過去を話すことは、避けたかった。
幼い記憶。
恐怖と、孤独…泣き叫んだ記憶。
くるみは思考を停止させる。
(考えちゃ…だめ。怖くなる…。折角先生が…)
しかし、追憶は始まる。
痛みの記憶がフラッシュバックし、くるみはまた黙り込んだ。
唇を噛みしめ、俯き、膝の上に置いた手は震えた。
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