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「…。」
黒岩は、車を走らせ、そして止めた。
「出ろ」
「へっ?」
「いーから。」
黒岩は、さっさと車を降りた。
取り残されるのが怖く、仕方なくくるみも降りる。
「ここ…公園。」
「少し落ち着け。」
「…すみません。」
噴水の水が静かに空中を舞う。
くるみはそれを眺め、小さく謝った。
黒岩は、くるみの手を引きベンチに座るように促す。
同じように、黒岩も隣に腰かけた。
公園の時計にさりげなく視線を向ける。
時刻は二十一時前。
「家に連絡入れとくか。…おい、家の番号教えろ。」
「…はい。」
覚えてる番号を呟くくるみ。
携帯片手に、黒岩はボタンを押す。
プッシュ音がやけに響く。
「…もしもし。間宮 くるみさんのお宅ですか?」
黒岩は事務的口調で、遅くなった理由を述べていった。
「間宮さんには、少し資料整理の手伝いをしていただいてしまって…はい、はい…はい、そうです…私が新任なもので…申し訳ありません…はい…間宮さんは責任を持ってお送りしますので…はい、失礼します。」
通話を終了し、黒岩はふぅ、と溜息を吐きくるみに向き直る。
「とりあえず、親御さんに言っといたから。忘れ物を取りに来た間宮を引きとめて、資料整理手伝ってもらった…て。」
「っ!?それ、先生が悪者みたいに…」
「いいの。大体はあってんだから。」
「あってないですよ!!だって、私がっ!!」
そこまで言って、くるみは我に返ったように目を見開き口を閉じる。
(私が……私、今何て言おうと、した?)
「…私が、何?」
「…わた…わ、たし。」
言葉の続きを求めるように、黒岩は復唱する。
何かとんでもない事を口走りそうな…そんな気がして、くるみは再び俯いた。
(私…知りたくて…)
(そうだ…私、知りたくなっちゃったんだ。)
くるみは、覚知した。
自分は、この裏表の激しい担任の…
裏の顔を、本人がこれが素だ、と言った顔を…
もっと、知りたいと、思っていたのだ。
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