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「…間宮。」
「あ…あの、私。」
「…ただの好奇心なら。」
黒岩はいつもの目つきに変わっていた。
表の…担任教師の黒岩 真咲に。
しかし、口調は…
「そっから先の言葉…言わない方がいい。俺にあんまり近寄んな。」
「でも…」
「でもも、クソも無い。とにかく、俺も悪かった…」
「…。」
「興味本位でお前をからかったのは事実だからな。」
そう言って、黒岩は目を伏せた。
くるみはそこで…
初めて、黒岩 真咲という人間の飾りない姿を見た気がした…。
優しさはひた隠しにされていただけ…
ただ、それだけなのだ…
「…私、両親、いないんです。」
「…は?」
唐突に語りだすくるみ。
その脈絡のない言葉に、黒岩は首を傾げるしかなかった。
俯いたまま、くるみは話し出す。
くるみ自身、黒岩の戸惑いを隠せない表情は見えなかった。
見ようと、しなかった。
出来るだけ、避けていた。
くるみは…
「私、本当は人づきあい苦手で…表情を見たり目を合わせるの…苦手なんです。」
「…。」
「本当は…怖くてたまらない。私…本当は何も楽しんでないから。」
話す。
くるみは、ただただ怯えたように語る。
「私…本当は全部ウソついてるんです…みんなに好かれるように…話題を合わせて、笑ったり、同情してみたり…私、イヤな奴なんです。心の中で…冷め切っているの…分かってるんです。」
「…。」
「でも…でも…みんな私が悪いんです…いい子じゃないと…嫌われちゃうと…私は…」
「…。」
「わ…私は…いらない…」
「言うな。」
ぽん、と。
くるみは自分の頭に温もりを感じた。
黒岩の手が、ただ、置かれていた。
ぽん…ぽん…
諌めるように、黒岩はくるみの頭に手を置き続けていた。
「みんな…そんなもんだ。」
「…。」
「心のどこかで、冷静な自分がいる…。気づいてるか、気づいてないか…それだけの差だ。お前は気づいて、それに嫌気がさしちまってるだけだ。」
「先…生?」
「…俺もお前も、探してんだ。素の自分でいれる場所を。」
くるみは、顔を上げた。
自分と肩を並べる、担任の教師。
ニッ、と幼く、悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
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