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一通り自己紹介した黒岩は、例によって女生徒たちの質問攻めにあっていた。
しかし、ものの五分も持たずに、それは終息していた。
「センセー、独身なんですかー?」
「いくつですかー?」
女生徒たちの、嬉々とした質問に黒岩はピシャリと言い放っていた。
「それは…今後君たちが社会に出るうえで、必要な情報なのですか?」
「えっ…」
「では、これから送る学生生活で役立つ情報ですか?」
「……。」
毅然…冷酷無慈悲とも…大げさに言えばとれる物言い。
表情一つ変えず、黒岩は静かに語っていた。
教室の空気が、寒々しくなり、教頭は訳の分からない咳払いを一つ。
「あー…じゃあ、よろしくお願いしますね。黒岩先生。」
「えぇ…努力は致します。」
教頭が教室を出て行く。それこそ、そそくさとぎこちなく。
クラスがざわつく。
ふぅ…と溜息が一つ零れた。
黒岩だった。
「君たちは来年…進学する者は受験、就職する者も就職試験に面接…。浮かれているものは即刻、考え直す事ですね。」
「…。」
「そうやって目新しいものに目を向けるのは…刺激を受けストレス発散にもなるかもしれんが…学生の本分を忘れることなきように。」
再び、溜息。
「では、授業を始めましょう。」
始業のチャイムから、十分余りの出来事だった。
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