黒鬼先生と委員長

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淡々と… それでも、柔らかくなったその空気の中で授業は進んでいった。 黒岩の物言いは相変わらず淡々としていたが、内容は丁寧で分かりやすいものだった。 故に、クラスメイト達は各々、安心して問いに答えることができていた。 実験においても、簡潔で分かりやすかった。 くるみも、好奇心を素直に表情に出し、生き生きと助手を務めていた。 「と…このように止まっている物体…この場合傾斜の上の木製のミニカーですね。これに力を加えなければ、そのまま止まり続けます。で、傾斜を下り始めたミニカー…動き続けている物体に、力を加えなければ、そのまま動き続けます。」 「…」 教卓の上に造られた、簡易の実験装置。 子供が遊ぶような、上り下りのある木製のレール。 その斜面を、同じ色をしたミニカーが滑る。 「これは運動の第一法則とも呼ばれます。で、この性質を慣性といいます。」 黒板を滑るチョーク。 クラスメイトは皆、集中していた。 「皆さんが身近に体験しているもので例を挙げれば…車が急発進すると人は後方に倒れそうになるでしょう。それは、人が慣性によって止まり続けようとしているのに乗り物が前へ動いてしまうからです。逆もまた、同じです。急停止した場合に前方に倒れんでしまうのも、人が動き続けようと意識しているからです。」 「電車とかでの、あれですか?」 「そうですね。まさにいい例でしょう。 座らずに、立って乗車している場合、床に着く面積も狭い故に不安定…。 座っているときよりも、さらに体感しやすいでしょう。 物体が急な動きに対応できない、という事も言えますね。」 黒岩の授業は、淡々と聞こえて、実はかなり分かりやすいものだった。 身近にある実体験を添え、より実感を湧きやすくさせるもの。 質問する者も増え、授業は問題なく進んで行っていた。
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