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歪んだ世界。
四方が海に囲まれ、隔離された島。
私はそこの住人。魔物と呼ばれる者の一人だ。
月明かりは雲の節から射し込み、海を照らした。
刹那毎に姿を変える海は月光を反射し、煌めく。
もう1つ。森は闇を抱き、全てを拒んでいるかの様な感覚を抱かせると同時に足元の石畳が更に冷えた気がした。
「私の名前……」
いつからだったか。
それも思い出せないほど昔に私は名前を捨てた。
理由も名前も全てーー忘れた。
そもそも外の世界の“人間”は私達、魔物を名前で呼ぶことはないらしい。
良くて種族名。まぁ、私達魔物も同じか。名前を知るよしもないし。
だが、それでも、呼ばれないとしても、私は自分の名前を思い出そうとしている。
何故なのか。
自分の問いかけは私の奥底へと沈んでいく。元より、答えなど用意していないし、用意出来ない。
忘れたのだから。
だがまぁ、別に名前が思い出せないにしても不便ではない。
私の役職名で全てがまかり通る。
そう。深紅の瞳とハーフアップの赤い髪。出るとこも出ない。身長もない。
それでも、魔物の頂点ーー魔王なのだから。
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