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___ザリザリ。病院を出て、二人で歩く。サクヤさんと僕、手を繋ぎ、少し買い物していこうかと話ながら。
「婚姻の手続きと子供の報告も、爺さんがやっといてくれるっつーのは助かるな」
「はい。何度も店を空けずにすみますし、良かったですね」
お医者の先生は僕らと話ながら、机の中から沢山の紙と、幾つかのペンと、印を出して何か書き付けながら、もう良いから帰れ、と言って手を振った。診察室を出て、すぐのところでクレマンさんが待っていて、サクヤさんはいくらかのお金を払い挨拶をして病院をあとにした。
「…フィールフィーリア」
隣から、小さく僕の名を呼ぶ声がした。
「はい」
返事をすると、繋いでいた手が少し揺れる。
「お前、今日から俺の部屋で寝ろ」
「……はい」
聞こえた言葉に、少し心がはねた。嬉しいような恥ずかしいような、そんな気持ち。今朝見た光景を、これからも毎日見ることが出来て、サクヤさんの香りも、当たり前のように僕のからだに馴染む日が来る。…それは、なんて…幸せな日々だろう。
「あー、…なぁ、だから、つまりよぉ。今日から俺の部屋はお前の部屋になるわけだ。だから、お前の使ってた部屋は子供部屋にする」
早口で、決定だぞ。とそう言うサクヤさんをチラリと見上げる……その耳は、ほんのり赤くなっていた。
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