第3章 子育て―乳児編

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昼過ぎ。各々(おのおの)の荷造りも済み、馬車へ積み込み終えると、今度は席取りに文句をつける高らかな声が耳に届く。 「儂は痔なんじゃ!固い木板の上なんぞには座らんぞっ」 小さな身体をぴょこぴょこ飛び跳ねることで精一杯アピールし、艶のある杖をふりたくる爺さんに、吐き捨てるように一言。 「……ぼらぐのーるでもぬっとけよっ」 ちっ。なるべくあちらの言葉は使わないよう気をつけてんのに。 「おおっ!あの塗り薬!あれは効くのじゃ!また作ってくれっ」 あー、爺さん。頼むから黙って木箱の隅にでも座っててくれ。と内心溜め息を吐き出しながら、一応は師匠である爺さんのためにちょうど良い位置に厚めの布とクッションを用意してやった。 「……全く、何で俺が。フィーのを用意するなら解るが、爺さんのかよ」 ぶつぶつと文句を垂れ流しながら作業を進める俺の隣で、きゃっきゃと笑い声を上げるサフィンを抱いたフィールフィーリアがにっこりと笑顔を見せる。 「くすくすっ。僕のはほら、自分で出来ますから大丈夫ですよ?」 あー、俺の嫁最高。癒やし効果が半端じゃない。 「気持ちの問題だ。ほら、フィーも座ってろよ?体調は大丈夫か」 それでもやはり、俺としては我が儘ばかりの爺さんと何もせずムスッとふてくされたままのユイファに湧き上がる苛立ちが押さえきれないわけで。 「はい。サフィンも今日は機嫌が良くて、お腹もいっぱいだからもうすぐ寝ちゃうと思います」 今日も朝から忙しそうに働いてたから、産後の伴侶を持つ俺としてはどうも気を抜けない。 「ん、お前も少しは身体を休めろよ」 体調を確かめるため、頬に触れじっと顔を見つめ、やっぱり可愛かったので、ぷるっとした唇へチュッとキスを落とす。 「んっ」 「うぶぶぅー」 それから、俺達の仲の良さを見て嫉妬したのか、むっと唇を突き出してんー!と怒りを露わにしているサフィンも、優しく頭を撫でてやり額へチュウ。 「……」 「なんだよ」 背後からの視線に返れば、そこには寂しい独り者が二人と、お堅すぎて妻とのスキンシップが足りなさそうな二児の父。 フラルラと子供達は出発前のトイレタイム。 「ふん」 すでに旅立ちの準備を終えた俺は、愛するフィーとサフィンを抱き寄せて優越感と幸福感に浸り、時間の許す限りいちゃいちゃし続けてやった。
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