第3章 子育て―乳児編

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《ほとけつくってたましいいれず・二》 「んー、エディンのとこと変わらないかな。皆不気味な空気に浮き足立って全く仕事にならないよ。……それよりも、ね、奥さん元気になった?」 まぁうちの隊も、怪我の際に治療する医者がいても薬がなければ不安が募ると急遽外での訓練を中止し、全ての業務を室内で出来る書類仕事や掃除などへ変更したのだが、それすらミスばかりではかどらん。 しかし最近は訓練が多かった分、溜まった雑務を集中的に片付けられて良かったかもしれんな。 「リアノーファか。まぁ、そうだな、見つけた時よりは良くなりつつあるが」 我妻を思い返し、眉間に寄る皺をもみほぐし、言葉を濁すべきかと一瞬迷う。 「が?」 いや、コイツは濁したところであっさりと諦め、離れていく事はなかろう。 「あー、込み入った話だ」 だがやはり話しづらいことに変わりはない。ゴホンと咳を一つ、窓の外を眺めた。 「僕は君の親友でしょ?」 小さな子供のように、むくれて頬を膨らますキールに一瞬押し黙り、暫く見つめ合った後、私は観念し……心に蟠(わだかま)る苦しみや罪悪感の塊を告白した。 「……子供がいた」 掠(かす)れたような声。思い切りよく話したつもりが、その秘密は私の喉を酷く締め付けていた。 「……え?」 自然と俯く視線を無理やり上げ、目の前に立つ幼なじみを見ると彼は固まっていた。息もしていないように見える。口を小さく開け、両手を机におき、恐ろしい何かを目にしたかのように両目を見開いて私を見下ろしていた。 チクり、ジワリと、心臓から何かが滲み出す。 瞼を閉じて、小さく息を吐き、妻にこの秘密を打ち明けられた日を思い出して、息が詰まる。 「私とリアノーファの子供が存在していたんだ。17年前、リアノーファは俺の母に街を追い出された。其処までは知っているだろう……」
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