第3章 子育て―乳児編

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《ほとけつくってたましいいれず・三》 たった一度、人見知りをする気の弱いリアノーファにキールを合わせたことがある。 初めは私の背に隠れていたリアノーファも、元来人なつこく人当たりの良いキールには、いつの間にか心を開いていたようだったことを思い出す。 リアノーファが私の前から姿を消した日から、全てを忘れたつもりで仕舞い込んでいたのに、気がつけばあふれ出す。結局は、私自身がリアノーファとの日々を求めていたのだ。 「リアノーファは、その時にはもう既に懐妊していた。……当たり前なんだ。少し前に求婚し、子供さえ出来れば親もリアノーファとの婚姻を許さざる得ないだろうと伝(つて)のある薬師へ頼み込み手に入れた薬を……使っていたのだからな」 「……」 馬鹿なことをしたと、今なら言える。まだ若かった私には、上流階級に属す両親に認めてもらう行為が婚姻には重要だと思いこんでいた。それが、リアノーファを傷つけ、蔑ろにする結果を生んだのだ。 リアノーファは両性体なのだ、本来ならば婚姻を済ませ充分に準備をすませた状態で使うべき薬であり、リアノーファを大切に思うなら、使用するべきではなかった。案の定、私の預かり知らぬところで両親は手切れ金を押し付け、リアノーファを街から追い出した。結果、リアノーファは両性体とてはあり得ないことに妊娠期間は放浪し、片親で子を産み育て偏見の目に晒され、両性の体で無理を続け……遂には病に倒れた。 医者には死ななかっただけでも運が良かったと思うべきだ!と随分叱りつけられ、リアノーファはこの先ベッドから長い時間起きあがることは難しいだろうと診断されている。
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