第3章 子育て―乳児編

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《ほとけつくってたましいいれず・五》 私はいつも、大切な物を忘れてきたように思う。 15の誕生日を機に貴族として、歩むべき道を考え、国を守る立場の軍へと入隊した。 それは、貴族に生まれた子息が当たり前に進む道。入隊し士官になり、ただ家と権力のために階級を上がっていく。今では隊長職を与えられ、相応の地位や名誉や金銭が与えられた。両親は喜び、上流階級の知り合いは褒め称え、自分の娘を紹介してくる。 私は、何のために生きているのか。 初めてそれは考えたのは、19年前。まだ軍の中でも新人として扱われていた私は、その日街の警邏に駆り出された。街は年に一度の祭りに盛り上がり、街の外から来る観光客が溢れかえっている。そんな中を、私は仲間と歩いていた。祭りにかこつけ、スリや暴漢が紛れていないか、視線を走らせている最中、パン屋と定食屋の間に走る細い隙間に大柄な男性体とまだ若い12のリアノーファが揉み合って居るのを見つけ、仲間と共に痩せてボロを身に纏うリアノーファを助けに入り、目を見張った。 リアノーファはまだ幼く、その辺の孤児と変わらぬ姿をしていた筈が驚くほどの色香を放っていたのだ。泥やホコリで汚れた肌と着衣のの隙間から見える色白な身体。不衛生な環境に置かれても、艶を失わない髪に、赤い唇。 ほかの仲間は何のこともない、ただの浮浪児と決めつけ特に興味もなさそうだったが、私は……リアノーファを我が家と関係の深い孤児院へ連れて行き、そこで暮らせるように手続きをとった。リアノーファを手放してはいけない気がしたのだ。今手放せばら、二度と会うことが叶わない気がした。
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