第1章 出会い─告白編

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……どうして、こんなことになってしまったんだろう。 たった十数年しか生きていないのに、少し前まで父さんに剣や勉強をならっていた子供の僕は……もういない。 もう夕暮れも過ぎて、外はとっぷりと暗闇に包まれた時刻。指定された廃屋で約束の相手を待ちながら、僕は深くため息を吐き出していた。 ◇◆◇◆◇◆◇ ジャリ。 約束の時刻を大幅にこえて、もうすっかり身体が芯から冷えきった頃、ようやく乱暴に砂を踏む足音が室内に響いた。 「おい、お前……あれマジかよ」 謝罪もなく、現れた男は開口一番そう問いかけてきた。 彼はいわばこの辺で裏の仕事を回す仲介人で、今回は大金が必要な僕をこの仕事へ誘った張本人。 「……だったら」 「あ?」 「だったら、どうだって言うんです」 寒く震えて、何よりその男の態度に気分の悪くなった僕が逆に問えば、彼はクチャクチャと口内で遊ばせていた安物の噛み煙草を吐き捨て、此方を睨む。 薄汚い空き家に、柄の悪い男と二人。 この場所で、僕は親には決して聞かせられない話をしている。 「……ったく、アノ人も酷いことするぜ。お前を貸し出す時の契約書にはコレについては禁止事項として載せてあるんだ。これ以上スラムのガキ増やしてどーすんだ?ったくよ!お前、言っとくけど、アノ人にとっちゃお前は遊びだからな。あとでセキニンがどーのとか言うなよ?」 男はしばらく黙ったあと、少しの同情と嘲り、そして疑うような眼差しを向け、僕へ言い聞かせるよう語りかけた。 その真剣なようすに、思わずこくり、と唾をのみ込むと、僕は両手を思い切り握りしめ、俯いて相手のニキビあとが目立つ鼻辺りをみていた視線をあげ、目の前に立つ眼光鋭い男へ向かい叫ぶように言葉を投げる。
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