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泥や死骸で両手が汚れるのも気にならなかった。
ただ、この散らばる金貨を早く袋につめてすぐにでも家に帰りたかっただけ。そこには、お金があれば、コレさえあれば父さんは助かると、そう信じて疑わなかった自分がいた。
けれど、数日ぶりに帰った自宅は……もぬけの殻で、病で死にかけていた父さんも、あんなに大事にしていた母さんの形見の服や髪留めも、飼っていた馬さえ、そこには影も形も残っていなかった。
「……アンタ、風邪引くぞ」
気がつけば、雨が、降っていた。
どれくらい経ったのか。アレから、金を家の秘密の場所に隠して方々に聞いて回り、父さんの影を捜し続けたけれど、手がかりすらないまま。
「……かえるばしょが、なくて」
ダルくて、もうこのまま、眠ってしまいたい。でも、もし、この瞬間に父さんに何かあったら?もし、父さんが……
「んー。じゃあ、ウチ来るか?雨宿り」
霞んで良く見えないその人は、低くて心地良い声で、何かとっても素敵なことを言ってくれている。
「な、に?」
「ちいせー店でな。一階は薬屋で、二階が自宅」
ピチャリ。
かぶっていたマントのフードから水滴が落ちる。
「つ、めた」
「こりゃびじょびじょだなァ」
「すみ、ません」
そのあとは、良く覚えていない。
なにか暖かなモノに包まれ揺られていたように思う。
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