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朝早く、隣の部屋から聞こえる音に耳をすます。
「……どうしよう、起きた方がいいかな」
結局、昨夜夜中に一度目が覚めてからは寝付けないまま。ガランとしたなにもない部屋に、毛布などを借りて丸まっていただけでなんだか頭がいたい。
きっと、店を開くのに準備が必要で、そのために早起きをするんだろうな。と予想はできたのに、一晩泊めてもらったんだからお返しに手伝った方が良いんだろうな。と、頭では分かっているのに、部屋から出ることがとても怖い。この暖かな毛布と雨風や他人の冷たい視線から自分を守ってくれる小さな部屋のドアから、出ていきたくはない。でも、きっと、昼頃には、また路地を彷徨く自分の姿が想像できる。
「…きっと、朝が過ぎたら」
朝が過ぎたら、外に出されるんだ。
この、暖かな、家の外に。
「ごめんね」
自分の、ペタリとした腹を撫でて僕は呟く。
もう、僕にはキミしかいないんだよって。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうしてぎゅっと身体を抱き締めて、じっと縮こまって耳をすませていると…カチャリ…と隣の部屋のドアノブが回り人の出入りする音が聞こえてきた。
その人は、ギシリと足音の響く廊下をそぅっと、特に僕の部屋の前では音を立てないように通りすぎようとして足を止めた。毛布の隙間から、木製のドアにはめられた小さな磨りガラスが見えて僕はより一層息をひそめる。
「……まだ、おきているわきゃないか」
小さなヒソヒソ声で聞こえた声は、朝起きたてだからか掠れていたけれど確かに昨日一度耳にしたあの人のものだった。
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