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「あさめし、どーすっかな」
なんて呟きながら、彼は今度こそ部屋を通りすぎていったようで、僕はホッとしていつの間にか止めていた息をはきだして、……もそり、と毛布を引きずりドアを目指して四つんばいで這う。
「……ぅ、ぁちゃー。たまごなかったか」
木のドアを背に聞き耳をたて、小さく響くその声に耳をすませる。
……昨日は、朦朧としていたのと極度の緊張で良く覚えてないけど、確か大きくて、ぶっきらぼうだけど優しそうな男性体だった。
「かみは、くろ。めも、くろ。はだのいろは、しろ…じゃなくて、くりーむいろみたいな…」
黄色みたいな、クリーム色だった。
それから、草のにおいがした。
「たのんだら、……ここへおいてくれるかな」
優しそうな人だった。から、だから、……でも、きっと。
もっと、前に会えていたら、もっと違っていただろうか。
そんなことばかりが、頭のなかを行ったり来たり。もうなにもかも嫌になって、毛布を手繰り寄せ顔を埋める。
貸してもらった毛布からは、草の香りがした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コンコン。
寄りかかったまま、眠ってしまったらしい。
背にした扉を叩く音が、身体に響く。
「あー、…朝飯だ。食うなら廊下を進んだ突き当たりの居間に来い」
なにを言われるかと思って多少身構えたのに、ノックのあと間が空き、ご飯に誘われた。
「……は、はい」
「顔、洗うならドア開けて正面に風呂場がある。水と桶は置いてあるし、布も棚から好きに出せ」
彼は言うだけいったらもう用事は済んだとばかりに足音をたて廊下の先に消えてしまった。
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