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どうしよう。ご飯は食べたい。でも、追い出されるのは嫌だ。けど、ここで時間を食ったらきっと彼も待っているのに…どうしたら。
悩んで悩んで、僕はドアノブを掴み、ゆっくりと力を込めて回した。
「えっと、正面にお風呂場…」
廊下へ出れば昨夜は見れなかった部分が見えてくる。
全体的に木造で、かなりしっかりした作りだ。今朝見たドアの磨りガラスだって、普通の民家じゃあまり見ないし、お風呂が自宅にあるって…お金持ち…なのかな。
うろうろと視線を迷わせて、たった数歩の距離にずいぶん時間をかけたかもしれない、急がないと。
「―――わ。…つめた」
お風呂は、お風呂も木造で、でもとっても良いにおいがした。
ただ、桶に入った水はすごく冷たくて、手が震えて、布を顔に押し付けたらようやくとめていた息があふれでて、ホッとした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ごめんなさい。遅くなって…」
「いや、気にしてない。座れ」
顔をぬぐってから急いで廊下を抜ければ、彼はもう席について僕を待ってくれていた。
慌てて謝ったけど、表情が分かりにくい。怒ってないかな?
席に座りながら、こっそりこっそり彼の様子を伺うけど、黒くて艶のある眉毛はピクリとも動かないし、その瞳は長いまつげに邪魔されて覗けなかった。
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