さよならマーメイド

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人々が何事かと声のした方を向くと、一人の少女と、その目線ほどの高さで浮く本が、騒ぎながら室内を進んできていた。 少女の名前はルーチェ=アグノス。 年頃は十七、八か。 オレンジ色の肩までの髪、本を映す瞳はエメラルドにぎらついている。 少し小柄な可愛らしい少女だ。 最も今はその可愛らしさは影を潜めているが。 彼女は御伽衛勇士見習いであった。 そして彼女と言い争っているのが、本の精霊、ラウ。 茶色の表、裏表紙が羽のようになり、空中を動いている。 開いた本の真ん中には、仄かに光る玉が浮いていた。 今は赤いが、普段は乳白色の光だ。 感情で色が変化するらしい。 いまだに一人と一冊は、言い合っているが、人々は苦笑いを浮かべて、自分達の行動を再開していった。 最早、毎日といって良いほど行われている小競り合いなのだ。 .
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