ロストワン

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「別に変なことじゃないでしょ?」 私は湯川の顔を見ずにさっさと歩く。おかしいのは私のほうだ。それくらいの自覚はあるが、ここでそれを否定し、隠すつもりもない。湯川の返答も待たずに私はスタスタと歩いた。 冷凍庫に死体を詰めて、シャワーを浴びる、一応、殺人犯が潜んでいるかもしれないのでお互いに見張りを立てて交代でだった。 私にとっては殺人犯が誰かなんてどうでもよかったけれど、殺されたくはないのでこれくらいはしておく。 死体というのは普通に思っていたより、重量がありかなりの労力だ。そのせいか温かいシャワーが心地いい。このまま湯船にでも浸かりたかったけれど、それをしている暇はなさそうだ。 「ごめんなさいね。お待たせした?」 「んん、そんなことないですよ」 と、壁に佇む湯川が答える。 「そう、じゃあ行きましょうか」 約束の時間をほんの少しだけオーバーしつつ私と湯川は食堂に戻る。もう、そこには残りの生徒は全員、着席しており、私を見て露骨に嫌悪を示す矢島と、オロオロと周囲を見渡しながら神田が視線をさ迷せていた。鍋島と山城は特に変化はないが、矢島と神田の関係が何かの拍子に爆発しないか、警戒しているようだった。と、その時、ガタンと椅子を押し倒しそうな勢いで立ち上がった神田がコテコテとこちらにやってくる。 「ああ、アーサを、アーサをどこかで見なかった!?」 アーサ? 神田が切羽詰まった様子で言う。アーサって何? と、思ったが彼女の手にあの継ぎ接ぎの人形がないことで合点がいった。 「アーサって、もしかしてあの人形のこと?」 と、一応、確認のために聞く。半ば確信していたけれど、間違いだと面倒くさいが、私の杞憂もそこそこに神田はコクコクと頷いた。どうやら正解らしい。ちっとも嬉しくない。神田の人形は部屋に置いておいた。あのカードを置いていく時にうっかり忘れた。 「それなら、落ちていたのを拾っておいたから…………」 だから、今から取りにいこうと言おうとしたーーーーが、その時には神田が私の手をすごい力で握りしめていた。ギリギリとした痛みに耐えながら、振り払うこともできず、 「どこ!? どこにやったの!?」 切羽詰まったというか、ヒステリックに問いかけてくる。その剣幕に少し驚く。 「慌てないで、ちゃんと渡すから、はなしてちょうだい。痛いわ」 これなら忘れずに持ってくれば良かった。
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