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そう思った行動だった。
「あや、あわあわ、すっ、すみません、前を見てなかったもので」
と、幼く寸足らずな声が背後から聞こえてくる。振り返れば、ペコペコと頭を下げる少女が一人、身長は低く、髪の毛は短い、御守りのように人形をその両手で抱きしめながら恐る恐る、私を見上げてくるその瞳はせわしなく揺れ動き、彼女の不安を表していた。その雰囲気や仕草からは保護欲というのを、引き出しそうだけれど、私からしたらうっとうしい謝罪の押し付けとしかうつらない。
「別に、気にしてませんから、今度から気をつけてください。神田(かんだ)さん」
彼女、神田の名前を呼び、私は返事を待たずにスタスタと歩く。白々しくて、うっとうしい。か弱く見せていれば許してもらえると考えていそうなところがよりいっそうに、苛立ちが募る。
言葉にすることは簡単だったけれど、ここで言っても神田はへこへこと謝るだけだろう。無駄なエネルギーは使わない。使いたくない。彼女と接する時間と朝食にありつく時間を天秤にかけるのなら、どちらにせよ、後者を選ぶ。遅刻したことを咎められるのも面倒だ。
本当に面倒だ。どうして、こんなに疲れることばかり起こるのだ。私は神田に気づかれないようにため息をついて、これにも無駄なエネルギーを使っていることに落胆した。
神田が、その後も一言、二言、言葉を重ねていたけれど、面倒なので無視をして食堂に入る。長テーブルが一つに、椅子が八つ、左右に四つずつ置いてある。
生徒が六人と、教師が二人だけなのだ。そのためテーブルも一つで十分だ。特に席は決められてはいないため、空いてる席から順に座っていく。神田が、トコトコと一番上、右側の席に座り、膝に人形を置いて、ちらりとこちらを振り向く、つまりは、隣に座ってほしいのだ。神田が、他の生徒と折り合いが悪いというか、一方的に嫌う生徒がいるため、その盾となってほしいのだ。
あざといと思っても、ここで妙に距離を置いて座ると教師から不審がられるかもしれない。厄介事はなるべく避けたいけれど、どうやら難しいらしい。
私は渋々、神田の隣に座る。 その間、会話とはなかった。神田がしきりに話しかけてきても、曖昧に頷いたり、返事をするのみで時間を潰していると、
神田の真向かいに、金髪の女がどっかりと座る。挨拶もなく、そいつは口を開いた。
「朝からキンキンと耳障りな声が聞こえると思ったら
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