ロストワン

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神田の真向かいに座った金髪女は、片手で頬杖をついて、苛立ちを隠すことなく口を開いた。 「朝からキンキン、かなきり声がうっとうしいと思ったら、やっぱりあんただったのね、神田!! 相変わらず、気色の悪い人形を持ち込んでんじゃないわよ」 あんたのほうが、うるさいと思ったけれど、こちらに飛び火してくるめ面倒なので私は黙秘する。まぁ、神田が御守りのように持ち歩く人形は、まるで継ぎ接ぎでボロボロだ。それも装飾というわけでもなく、一度、引き裂いてから強引に糸で縫い合わせあるのだ。見ていてあまり気分がいい物じゃないけれど、そんな物は無視してしまえばいいのに、目の前に座る矢島(ヤシマ)はそういった物が許せないらしい。正直、私からしたら、どうしてそこまで口出しできるほうが、不思議で仕方ないけれど、いちいち口出しすることでもないだろう。神田が、助けを求めるようにこちらをちらちら視線を向けてくるが、どうでもいい。 「まーまー、そんなに怒らなくていいでしょ。矢島さん」 と、矢島の隣にメガネに短髪の少女がなだめた。馴れ馴れしいその態度に矢島が露骨に表情を歪めた。 「うっさいわね。あたしは、ああいう不気味な人形があると、食欲が失せるって言ってんのよ」 「だったら、わざわざ、こんなに近くに座ることないんじゃないのかな。それにさ、神田さんにとって、それは『必要』な物なんだし取り上げるわけにもいかないでしょ?」 「…………」 フンッと矢島は顔をそむけた。必要な物。私達がここにいる理由と直結することだ。 「私達はさ、擬似的にも『家族』なんだから、そういうところも少しずつでも受け入れるべきでしょ。加藤(カトウ)さんも、無関心を決め込んでないでフォローしてあげようよ。神田さんが困ってるんだからさ」 「…………善処します」 善処することなんてないけれど、私に飛び火しなければ、誰がどうなろうがどうでもいい。加藤、そう言えば名前を呼ばれたのはずいぶん、ひさしぶりだどうでもいいか。 「…………っ」 隣で神田がうつむきつつ、人形を抱きしめていた。継ぎ接ぎのボロボロの人形の両目の部分をギュッと親指で押しながらーーーーカンカンカンっと何かが打ち鳴らさせる音がした。 「はいはい、はーい。朝から陰気な雰囲気はやめようね。朝食、食べれず、チョーショックなんつって」 「「「…………」」」 笑えない。つまらないというより、くだらない。
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