ロストワン

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「ぶはっ!! 大川せんせー、それ、古いって、仮に思いついたとしても誰も言わないからーーーー」 なのに、矢島をなだめた、メガネ少女、鍋島のみがケタケタと腹を抱えて笑っていた。何がそんなにおかしいのか、理解できない。矢島はきょうがそがれたのか、自分の爪を見つめ、神田にいたっては何が起こっているのか、わかってすらいないようだった。 「はは、そっか? やっぱり、おっさんだからなー。お前ら女子高生とはなかなか、話が噛み合わなくていかんなー。いや、加藤達も笑ってくれていいんだぞ。そこまで無反応だと、先生、ちょっと虚しくなっちゃうからな」 と、この場所での唯一の男であり、教師の大川(オオカワ)が言った。背格好はひょろっとして細長く、軽口が多くて頼りない感じでなかなか印象に残りにくい。たぶん、町中ですれ違っても気がつかない。気がついたとしても高確率で無視するだろう。こんな人間と関わりたくない。 笑う要素なんてどこにもなかったし、笑い声というのは思った以上に疲れるため、私はいつものように無関心を貫き通していた。唯一、神田がぎこちなく笑っていたけれど、矢島に睨まれ、即座に引っ込めた。嫌いなら近寄らなければいいのに、どうして、そこまで邪険にしたがるのーーーーかどうでもいいことを考えていると、 ーーーーコンッと音がする。 女子生徒が、一人で配膳していく。湯川という名前だったはずだ。腰のあたりまである長い黒髪をゴムでまとめている。ポニーテールというやつ、おとなしいというより、覇気がない、亡霊のようだと最初に出会った時にそう思ったし、彼女から話しかけくるこもないため印象も薄く、名前もうろ覚えだ。 「…………」 視線はこちらに向かずにテーブルに置かれた皿にむいている。もくもくと私達が座る逆側から置いていく。 「おーい。湯川ちゃん。こういうときは手伝って言うべきなんだぜ。なんだか、これだと湯川ちゃん一人に押し付けてるみたいで気分、悪いしさ」 と、軽いノリで声をかけたのは鍋島だった。いきなり、声をかけられた湯川はビクリと顔を上げながら、視線をさ迷せ何かを答えようとしたが、 「その必要はありません。今日の当番は私と湯川さんでしたから、鍋島さんは席について雑談にでも興じておいてくれていいですよ」 嫌みにもとれるその丁寧な口調で言った。この学園の生徒で最後の一人。きっちりとした雰囲気
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