ロストワン

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きつめな目つきが、高圧的な女、山城(やましろ)、この学園では、まとめ役として見られることが多く、彼女もそれを自覚してるっぽい。誰彼、構わずに話しかける鍋島とはちょっと違う。 「いやー、んなこと言ったって、こうしてみんなが揃ってるんだし、みんなでやったほうが早く終わらない?」 と、山城の高圧的な態度も気にした様子もなく鍋島が答えた。その流れでいくと私もしなければならないことになるのだろうか。面倒だ。当番の日ならともかく、やらなくてもいい日にやるほど、私はボランティア精神に溢れてないけれど、ここで口出しするとややこしいことになりそうだった。 「構いません。そもそも、この人数が出入りしたらかえって効率が悪くなるだけです」 「んーー? 難しい言葉を使ってもわかんないって、もっと簡単に話そうよ」 ニヘラと鍋島が笑い、あきらかに山城の額に青筋が走り、ピクピクと眉が動いている中でーーーー湯川が最後の配膳を終えた。 「じゃあ、今日も一日があることを感謝して…………」 大川が両手を合わせて言ったが、それを、遮るように山城が口を開く。 「大川先生、まだ、北見(キタミ)先生が出席していませんが? 朝食は全員が揃ってからと聞いているんですが」 空席のほうへちらりと視線を向けた。北見、もう一人の教師で、こちらは養護教諭という側面も持っているが、特に気にかけることもないだろう。遅れようが、どうなろうがどうでもいいことだ。 「あー、北見先生なら、買い出しに出てもらってるよ。ちょうどその時期だし、本校のほうへも経過報告に行ってるよ。これでいいかな。山城さん」 この学園は、山奥に建設されているため周囲に娯楽と呼べるものはないし、当然、コンビニやスーパーもない、そのための貯蓄があるのだが、定期的に買い出しに行かなければいけないのだ。車で往復しなければいけないほどの距離には不便性よりも、私達の脱走を阻止する目的があるのだろう。 「わかりました。妙な口出しをして申し訳ありません。どうぞ、続けてください」 「私達は家族であるとを、忘れないように、家族にとっての絆を失わないように、家族にとっての幸せを壊さないようにいただきます」 「「「「「「いただきます」」」」」」 声が揃い、黙々と箸を動かす。 大川が今日の日程を話している。いつもと変わらない、授業があるその一日だ。それだけだ。
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