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『それ』がなんなのか、最初、理解できなかった。ただ、鼻につく嫌な鉄臭さが否が応でも現実に引き戻される。
死体だ。それも惨殺死体。それが三階の教室のど真ん中に鎮座されていたのだ。身体中をめった刺しにしたのか、あちこちに刺し傷がある、そこから流れ出した血液が教室の床に巨大な水溜まりを作っている。ここで殺されたのか、並べられていた机や椅子は乱雑になぎ倒され、惨殺死体を座らせた椅子のみが中心に置かれた椅子だけ、人を座らせるという役目を果たしていた。まぁ、椅子だって惨殺死体には座られたくはないだろうけれど、生物でもない椅子に哀愁を抱くほど、奇特な性格はしていない。
惨殺死体の性別は服装からして女性だろう。数多くの刺し傷や染み付いた血液せいでわかりにくいけれど、なんとなくわかった。この惨殺死体の性別が判断できないのは、ひとえに顔がないからだ。鈍器で潰されているとか、刃物で原型を留めないほど、切り刻まれているとかそういう話じゃない。ないのだ、首から上がぽっかりと消えている。首の切断面は鋭利な刃物でも使ったのか、スッパリとした切り口だ。そんな風に教室の内部状況を客観的に捉えていると、
「ちょっと、そんなとこでたちつくさないでよ。邪魔じゃない…………の」
教室の惨状を見た途端に絶句し、私を見た。言いたいことはなんとなくわかった。
「私がやったわけじゃありませんから、私が来た時にはこうなっていたんですよ」
信じてもらえるかどうかは、別にするにしても一応、言い訳ぐらいしておくべきだ。ここで変に言いよどむと相手に警戒心を抱かせてしまう。そうなってしまえばあとあと厄介だ。別に犯人探しに躍起になるつもりもない。
「っ!? そんなこと聞いてないわよ。他の連中が来る前に先生、呼んでくるとかしないわけ、バカでしょ、あんた」
ああ、そうだ。そうするべきだと思った時、神田と鍋島が階段を上がってこちらに来ていた。
「どっしたの。二人共、こんなとこで立ち話? 私も混ぜてって、なんじゃこりゃー!! 」
「あうっ、どうしたの。鍋島さん?」
惨殺死体の発見に露骨なリアクションを見せた鍋島に、神田が驚きつつ近寄ってきた。
「ダメ、神田ちゃん。見ないほうがいい。ダメだから、鍋島お姉ちゃんとのお約束、この教室に入ったらダメ。ね?」
「どうして? みんなで隠し事なんてしなくても…………」
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