プロローグ

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煌めく森が密やかに発するのは、戸惑いと警戒の色だ。 ロキがフレイとアイリディアによって眠りにつく前、この森の者たちは全てロキの味方だった。今でも精霊たちに呼びかければ、彼らは惜しげもなく自分に力を貸してくれるだろう。だが、自分がこの地に現れた事への戸惑いは隠せない様で、今も息を殺す様にして自分の様子を窺っているのが感じ取れた。それもこの世界に流れた長い時間を思えば当然かもしれない。 足元の透明な湖には砕けた結界の破片が積もり、足を進める度に透き通る音を奏でる。 その破片の中に覚えのある気配を感じとる。紅髪の青年の気配は、確かに彼がこの地に立っていたことを証明していた。 湖の中央に眠る妹へと目を向ける。 巨大なクリスタルの中、胸に刺さる剣を抱える様に眠る少女。 その細い体には、解き放たれれば世界を揺るがしかねない膨大なマナが封じ込まれている。 かつて、そのマナをロキは手に入れようとした。 アイリディアとフレイはそれを封じようとした。 すれ違いは軋轢を生み、ロキは最愛の妹と、――同じ位愛した青年を失った。 その後、アイリディアとフレイで何を話したのか、眠りに着いていたロキは知らない。 ただ、笑えるほど真っ直ぐな二人だったから、こんな辛い選択をしたのだろう。 一人は力を封じて眠る事を選び、一人は時を忘れて守ることを誓った。 それでずっとやっていけるのであれば、そのままでも良かったのかもしれない。 だが、どんな物にもいつかは綻びが出来る。  ひたすらアイリディアとの約束を守る為に生き続けた青年は、ただひたむきに彼女と、彼女が守った世界を守り続けた。それこそ、気の遠くなる程の年月をだ。 (――もう限界だ)  青年に限界が来ているからこそ、目覚めない筈だったロキは目覚めた。  限界なのは青年の心か、体か。 酷使し続けたそれは、恐らくどちらも限界を迎えつつあった。  ロキは二人ほどお人好しではない。 二人は自らを犠牲にして、二人が守りたかった物を守ったのかもしれない。 彼らはそれでよいのかもしれない。だが、 「……俺は、そんなことはしない」  決意を声にのせる。  たとえ、それが彼らの意に反する事であったとしても、彼女と、彼を取り戻すのだ。  二度と、失わない為に。
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