第1章

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百合子ママに、 「経験があるの?」 と尋ねられたが、 「全くない。」 というと、 「じゃ、化粧と服の着こなしから教えないといけないわね。 あんた、靴のサイズは?」 「25cmです。」 「私の靴は小さすぎてはけないから、自分で用意してね。あと、化粧道具一式と洋服も。 私が一緒に行って選んであげるから。」 と面倒見のよさそうな百合子ママは、これからこの子をどうしようかと考えている様子で、細い指にはさんだ煙草に火をつけた。 「あんたは年より若く見えるけど、嘘ついたらわかるわよ。顔はごまかせても首筋に出る年齢はどうしてもごまかせないのよ。 じゃ、今日化粧道具一式と洋服と靴を買いに行きましょう。 代金は給料から引いておくわ。」 それから、市内のデパートで化粧品を、ブティックで洋服を2、3着、靴屋でハイヒール とローヒールの靴を買って帰ってきた。 店員は、ママがもと男だとは全く気がつかなかったようだった。 翌日から早速仕事が始まった。 三つ編みのおさげにそばかす顔の40才のイクラちゃんのデビューである。 先輩のお姉さんたちは、百合子ママに、薫ちいママ、10年目の江梨、、ちいママとつるんでる久美、タイ人のナエル、韓国人のユナ、それに潤平を加えて全部で7人。 それにバーテンダー兼店長が一人いた。 料金はセット料金が5,000円で、客単価は平均一万円前後。 決して安くはないが、怖いもの見たさの好奇心を満たすには、これくらいの出費は当然かもしれない。 だが、当然ながら貧乏人が来れる店ではない。 ドンペリを頼むと10万円である。 こんなのを頼めるのは、大会社の社長か、裏で犯罪に手をそめている人間くらいである。 一晩に二回、7時と9時に30分間の2回のショータイムがある。 これは、プロの作家が台本を書き、振り付け師がついてきっちり教える。 着替えする衣装は貸衣装である。 TVで見るニューハーフショータイムというと、きらびやかな衣装を着てただ踊るだけというイメージがあるが、実際には5ステージで衣装の早替えをしながら、いろいろなドラマを演じる。 シリアスなものも、コミカルなものもある。 時には、ライトを真っ暗にして素っ裸になって、点滅するライトの客席の間を行ったり来たりするスリリングな演出もある。 ストリップにあるまな板ショーもある。
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