第1章

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そのあと、潤平は三人いるうちの一人の常務に呼ばれた。 部屋にはいると、いきなり胸を蹴り上げられた。 「大事な客に逆らいやがって!!! このクソおかま野郎!!!」 「ママには悪いと思っています。」 「そうかい、そんな殊勝な気持ちがあるのなら、 じゃ、今月の給料の半分をママに渡しとくよ。」 ママに渡すはずはない。 こいつが猫ババするのがいつものパターンだ。 潤平は今が辞め時だと悟った。 店に戻るとさっきのヤクザはもう帰った後だった。 ママが、心配そうな顔をして潤平を控え室に呼んだ。 「ごめんなさいね。 ああでもしないと、あの客は何をしでかすかわからないから。 あんたは、体が痛かっただろうけど私は心が痛かったのよ。」 店長が来て、 「あの男は怒らせると何をするかわからないやつだから、向こうが手を出す前にこっちが先にお前を痛めつけたのさ。悪かったな。」 そう言って店長は潤平の肩を叩いた。 「店、辞めます。」 「仕方がないな。」 「元気でね。」 辞意はあっさり承諾された。 おそらく何度も同じことがあったのだろう。 化粧を落として、着替えて、手荷物を1つだけ持って店を出た。 仕事と割りきっているはずだったが、何故かほろ苦い思いがこみ上げてきた。 でも、よくよく考えたら悪いことばかりじゃなかったな。 外に出ると、12月の凍りつくような風が身にまとわりついたが、クリスマス間近の、街のネオンが照らす路のはるか上の満天の星のまたたきは、まるでダイアモンドのかがやきのように光って見えた。 「あっ、流れ星か!!」 願い事1つ掛けてみようか! 第1回潜入ルポ完了
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