好きになった人

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「いらっしゃいませー」 中年の男。彼女の父親くらいの年齢だろうか。くたびれた革ジャンに無精ひげ、ワイルドな装いのはずなのに優しさが溢れる男だ。 「えっと、二人」 入って来たのは男一人だ。それなのに二人と言われ彼女は戸惑ったが、すぐにテーブル席に男を案内した。 「こちらがメニューになります」 水を持って行くと同時にメニューを渡す。でも、まだ誰も来ない。彼女は気になってしかたなかった。けれども、お客様に対して踏み入れた質問などできるはずもなく、そのままカウンターに戻った。 そして、ずっと男を見ている。その目は明らかに恋をしていた。 「すいません」 男が彼女を呼んだ。 「はい」 「えっと、コーヒー二つ。あと、この今日のデザートって何?」 「今日はカスタードプリンです。おばあちゃんの手作りなんです。おいしいですよ」 聞かれてもいないのに、厚かましい感じに説明をしてしまった。それでも男は嫌な顔をせず、にっこりと笑って言った。 「じゃ、それを一つ」
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