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「カスタードプリン、お待たせしましたー」
彼女がプリンを持って来ると、意外な言葉が待っていた。
「あ、あの・・・今、少しだけ時間ありますか?」
「え、私ですか?」
「えぇ、時間があれば、少しだけ一緒にコーヒーを飲んでもらえませんか?」
「あの、どう言うことでしょうか?」
好みのタイプの男だ。一緒にいられるのは悪くない。それに時間帯が時間帯なだけに、客はこの男しかいない。時間は十分すぎるほどある。
ただ、男の言っている意味が分からない。一緒にコーヒーを飲むとは、どう言うことなのか、理解しがたいものであった。
「友達が教えてくれたんです」
「友達ですか?」
「あ、話を聞いてくれるなら座りませんか?」
男に促されるまま、彼女は腰掛けた。
「ありがとう。これを見てください」
男は革ジャンの内ポケットから、古びた写真を出した。カラーではあるが、今の写真に比べ明らかに色が淡い。古さを感じさせる写真だ。そこにひとりの女性が写っている。
「え、私?」
そんなはずがない。その写真に写っている景色、まるで記憶にない場所だ。特に後ろに小さな観覧車が写っているが、そもそも観覧車のあるような場所はこの辺にはない。
「あ、違います。彼女はまったく別の人です」
「ですよね・・・」
あまりに当たり前すぎたことを言った自分を反省した。
「その言い方。しゃべり方まで彼女にそっくりだ」
さすがにしゃべり方は、写真から察せない。けれども、男がここまで笑顔で言うのだから、そうだったのだろう。
「そうなんですか」
「はい。それでこの彼女に似た人がいる店を見つけたって教えてくれて」
「この写真の人はどなたなんですか?」
「うーん、好きだった人かな。それ以上のことは何も・・・。でも、彼女を忘れられなくて、今もこうして独り身なんですけどね」
そう言う男の表情、寂しそうに一瞬海を見る目に、彼女はときめきを覚えた。高鳴る鼓動。はじめて会った客に対して抱いてしまった感情。この処理の方法がまるでわからない。
「え、なんで告白とかしなかったんですか?」
踏み入れた質問はしていけないと、さっき思ったばかりなのに聞いている自分がいた。
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