いってきます-その後のふたり-

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話が佳境に入りかかった時、野太い排気音が聞こえてきた。 「きたー」 やかましい音だと祖母は感じたが、あえて何も言わないでいた。孫娘の喜ぶ顔に水を差したくないからだ。 カラン。 潮風を携えながら、革ジャンを着た男が入ってきた。 「ごめん。遅れちゃったね」 「ううん。大丈夫だよ」 彼女に挨拶した後に、男の視線は祖母に向いた。 「はじめまして。後藤と言います」 その顔を見て、祖母は複雑な気持ちになった。それは男の顔が、孫娘の父親、離婚していなくなった彼女の父親にそっくりだったからだ。 -父親に似た人を好きになるって言うけど、本当なんだね- 娘を泣かした父親を許してはいない。だから、この男もそうじゃないかと勘ぐってしまう。しかし、冷静に考えれば別人なのだ。そんな悲しい出来事が何度も起きるはずはない。そうは思うが割り切れずにいた。 「あ、はい。はじめまして、さとみの祖母です。すみませんね、こんな汚いところに来てもらって」 「いえ、そんな事は・・・」 男は言葉を選ぶあまり、それ以上何も言えなくなってしまった。鼻の頭を掻き、次の言葉を探し続けている。 「おばあちゃん!」 さとみがたしなめた。 「あ、ごめん。悪気はないんだよ。だって、本当の事じゃないか。さとみが産まれる前から、この店はあるんだからさ」 「そんなに長いですか。どうりで味わいがある訳ですね」 男はカウンターの天板に触れ言った。天板は天然木の一枚板だ。それが年を重ねる事により、風合いを醸し出すようになっている。アンティークが好きな男は、本当に気持ちを込めて言っていた。それが祖母にも伝わったのだろう。にっこりと笑った。 「ありがとね。あんた、よく見るといい男だね」 「あ、そうですか。そう言われるとうれしいな」 ちょっとだけ耳を赤くして照れた。それを祖母は見逃さなかった。 「いつまでもこんな所でくっちゃべってないでさ、そろそろ出かけておいでよ」 すると、さとみは軽く祖母に手を振った。 「はーい。いってきます!」
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