高台にある家

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自転車を降り、うつむきながら自転車を押す。ひたすら続く坂道を、何も考えずにひたすらに。 「あ、ここも配らなきゃ・・・」 僕は自転車を停めた。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・」 新聞は強いゴムバンドで固定されている。疲れきっている僕にとっては、新聞を取り出すだけでも重労働だった。 「うわっ」 新聞を取り出すのに自転車をきちんと抑えていなかった。だから、ゴムバンドで固定された新聞が自転車を引っ張り、倒れそうになったのだ。 そんなマヌケな姿をしている時、すぐ後ろにある配達先の家の玄関の鍵が開く音がした。 「あ!」 きっと彼女もそれを見ていたのだろう。思わず声を出していた。 その声のおかげなのか、自転車は持ち直し、なんとか新聞を1部取り出せた。 「あぶねー」 彼女がいるのを気づかず言っていた。 「何?谷口?」 僕の名前を彼女は呼んだ。なんで、こんなところで自分の名前を呼ばれるのか、軽いパニックと共に聞いた。 「誰?」 これからジョギングをしようとしているからだと思うけど、グレーのフードを被っている。声から女の子ってわかるけど、それが誰なのか想像もできなかった。 「私、私・・・」 フードを脱ぐと、そこには見慣れた顔があった。同じクラスの本田だった。 「本田・・・。ここ、お前の家なんだ」 「うん、谷口こそ何してんの?って聞くまでもないか」 本田は自分で言って、すごく無駄なことを言っていると気がついたらしい。声を出して笑った。 「うん、はい、朝刊」 「ありがと」 朝刊を受け取ると、玄関の扉を再び開けて投げ入れた。 「ジョギング?」 「うん、ダイエットってやつ?」 信じられなかった。本田はクラスでも美人で有名だし、どこぞのアイドルのように顔だけでスタイルがってこともない。その本田がダイエットのために、こんなに朝早くジョギングするなんて、いったい何の意味があるのだろう。 「そうなんだ・・・」 ただ感嘆するしかない。僕はやや口を開けっ放しにして、本田を見つめていた。 「じゃ、行くから」 そう言って本田は走り始めた。
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