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「注文は何します?」
「今日の日替わりって?」
「えっとアジフライかな」
「じゃ、それにするね」
いつもはハンバーグを食べるのだけれども、今日は気分を変えてみた。なぜなら、今日はいつもより全然早い時間に来ている。理由は一つ。彼女をお花見に誘うため。早い時間だから、他に客もいない。きっと、いや、絶対チャンスは訪れる。
でも、ハンバーグを食べてしまったら、その旨さに没頭して彼女を誘う目的を忘れてしまいそうだからだ。
「おまたせしました。アジフライです」
「ありがとう」
「珍しいですね。いつもはハンバーグなのに」
「そう?」
彼女が、アジフライな僕を気にかけてくれた。これをきっかけに、どうにかして誘うんだ。破裂しそうな心臓に誓った。
「そう?っていつも頼んでるじゃないですか。昨日だって・・・」
「あー、そうだった。最近、食べたもの、すぐに忘れちゃうんだよね」
「何それ。大丈夫なんですか?」
実際には忘れてなどいない。けど、ここで本当のことは言えない。いや、言った方がいいのだろうか。
短い時間の間に、様々な考えが頭の中をめまぐるしく駆け巡る。
「たぶん、大丈夫じゃないかな。うちの親父もこんな感じだったし、じいちゃんも・・・」
じいちゃんと言い出したところで、自分の発言を反省した。いったい何を言っているのだ。この状況は打破出来るのか、普段、仕事でもこんなに頭を使わない。それだけに知恵熱が出そうだ。
「おじいちゃんもって・・・。なんですか、それ。なんの自慢?」
ちょっとだけバカにしたような視線。完全にハマった。
とりあえず、この場をごまかそう。そう思い、アジフライを思い切り頬張った。
かけすぎたソースにむせる。
「大丈夫?」
ごまかすのには成功したが、今度は肝心の話ができない。ソースの次は、フライの衣が喉にかかり、どうにもできないのだ。
「み、水・・・」
そうやってアジフライを流し込んだ。
「ふー死ぬかと思った」
これでやっと話が出来る。
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